台所に一つの道具を迎えるということは、単に調理の手段が増えるということに留まらず、私たちの日常の営みに新しいリズムと、時には制約をもたらすもの。
ストウブ鍋、すなわち鋳物ホーロー鍋は、その重厚な作りゆえに熱を蓄え、素材の滋味を引き出すという非常に良い特性を持っていますが、この「重さ」こそが、日常の生活において最も大きなデメリットとなることを、覚悟せねばなりません。
ストウブ鍋のデメリット
購入前に覚悟すべき「重さ」
重厚であるということは、そこに力の負担が生じるということです。日常の調理において、鍋を持ち上げて具材を移し替えたり、水を入れて火にかけるまでのわずかな移動、そして何よりも油汚れや焦げ付きを落とすための洗い物の際、その重さは決して無視できません。
身体の力が衰えてきた方や、日頃から手首や腰に負担を抱えている方にとっては、この重さが毎日の台所仕事を苦痛に変えてしまう恐れがあるのです。
身体を労り、無理をさせないという食養生の精神から見れば、道具が身体に過剰な負担をかけることは、調和を乱す要因となりかねません。
重い鍋底がIHトッププレートを傷つける
IHクッキングヒーターのガラス製のトッププレートは非常にデリケートでございます。ストウブ鍋の重さゆえ、滑らせたり、乱暴に置いたりすれば、その重さと硬さがガラス面に傷をつけてしまう心配がございます。
これを避けるためには、鍋をコンロに置く際、また動かす際には、必ず両手で持ち上げて静かに置くという、丁寧な作法を習慣づけねばなりません。道具を大切に扱う心は、結果として、高価な調理器具や住宅設備を守ることにつながるのです。
破損するリスク
ホーローや本体が欠ける可能性と予防法にも注意が必要です。
鋳物ホーロー鍋は、その表面がガラス質のホーローで覆われているため、高いところから落としたり、固いものに強くぶつけたりすると、欠けてしまうことがあります。
一度ホーローが欠けてしまえば、そこから錆びが発生し、鍋の寿命を縮めることになります。高価な道具だからこそ、乱雑な扱いを避けることが、長きにわたりその恵みを享受するための肝要な予防法。
熱しすぎ・冷めすぎによる調理上の制約
ストウブ鍋は一度温まると非常に冷めにくいという良い特性がありますが、逆に言えば、火からおろした後も温度が下がるのに時間がかかるということです。
例えば、煮物を冷まそうとしてもすぐに冷めなかったり、夏の暑い時期に台所の熱がなかなか引かなかったりという、調理環境上の制約が生まれます。
道具の特性を理解し、その良い面を最大限に生かしつつ、制約となる面は自身の生活習慣で補うという「智慧」を持って接することが、この重厚な鍋を家族の健康に役立てるための道筋となるのです。
メンテナンスと衛生面で後悔しないための注意点
ストウブ鍋という優れた道具を得たならば、それを長く、清らかに使い続けるための心構えと作法を身につけることが、何よりも大切。道具を大切に扱うことは、その道具を通して作る食を大切にする、食養生の基本に繋がるからです。
ストウブ特有の課題、焦げ付きや変色が発生した場合の手入れの難しさ
ストウブ鍋の内側のざらざらとした「マットエマイユ加工」は、少量の油でも食材の旨味を引き出し、油馴染みを良くする工夫ですが、これがゆえに、焦げ付きが普通の鍋よりも強く定着してしまうことがあります。
もし焦げ付いた場合は、金たわしや硬いものでこすってはいけません。熱湯に重曹を少量入れ、弱火でしばらく煮ることで焦げを緩ませ、木製のヘラなどで優しく取り除くという、手間を惜しまない「慈しみの手入れ」が必要となるのです。
フチやフタ裏の「ピコ構造」のメンテナンス
ストウブ鍋の本体のフチやフタのフチ、そしてフタの裏にある「ピコ」と呼ばれる突起は、鋳物の地肌が露出しており、水気に触れるとすぐに錆びてしまいます。
洗い終わった後は、乾いた布巾で水気を徹底的に拭き取り、特にフチの部分には油を薄く塗り込む昔ながらの鉄器に対するような配慮を怠ってはいけません。この手間をかけることで、鍋は長寿を保ち、私たちの食生活を支えてくれるのです。
内側のマットエマイユ加工、ざらざらした内側は本当に剥がれないのか
ざらざらした加工は、表面を強くするために施されていますが、強い衝撃を与えたり、急激な温度変化にさらしたりすれば、ホーロー(ガラス質)である以上、欠けたり剥がれたりする可能性はあります。
長く使うには、急に強火にかけることなく、鍋が冷めている状態から徐々に熱を加えていく火加減への心遣いが大切。
食洗機使用がホーローの寿命に与える影響
食洗機は便利ですが、鍋のフチや金属部分が長時間にわたり高温の洗剤や水に晒されることは、錆びの原因を作ります。また、ホーローの光沢も次第に失われていくことが可能性があります。
真に身体を養う食を作る道具として、ストウブ鍋の持つ生命を全うさせるためには、やはり手洗いの手間をかけ、使用後に優しく油を塗るという、丁寧な作法を守るべきです。道具との対話を通じて、清らかな食生活を送るための知恵を身につけましょう。
ストウブ鍋のデメリットについてのQ&A
ストウブ鍋は非常に高価ですが、価格に見合わないと感じる耐久性以外の欠点はありますか?
ストウブ鍋は食材の旨味を閉じ込め、煮込み料理には替え難い良い働きをしますが、その価格に見合わないと感じる耐久性以外の欠点があるとすれば、それは「用途の限定性」にあります。
たとえば、毎日のちょっとした味噌汁や、さっと茹でる程度の軽い作業には、その重さゆえに不便です。重い道具ばかりに頼り、軽快な作業を損なってしまっては、日々の台所仕事がかえって重荷になってしまいます。道具の長所だけを見るのではなく、日々の生活の中での「使い勝手の良さ」という視点を持つことが肝心だと思います
複数のストウブ鍋を所有する場合、その重さと形状からくる収納上の課題や、スペースを取るデメリットはありますか?
ご家族が増えたり、料理の幅が広がったりして、複数のストウブ鍋を所有する場合、その重さと形状からくる収納上の課題は切実な問題です。
鋳物ホーロー鍋は、一つ一つが非常に重く、積み重ねるにも工夫が必要です。日本の台所は広くない場合が多く、この重厚な鍋が場所を取りすぎることは、収納スペースを圧迫します。道具は使ってこそ価値がありますから、取り出しにくく、仕舞いにくい場所に追いやられてしまっては、もったいないことです。
鍋の熱が冷めるのに時間がかかるという特性は、夏の調理や食事の準備においてデメリットになりますか?
この鍋の熱が冷めるのに時間がかかるという特性は、冬の食卓では大変良い性質となりますが、夏の調理や食事の準備においてデメリットになることも理解しておくべきです。
夏の暑い盛りには、熱が長く残り続けることで、台所の室温を上げ、調理者の身体に負担をかけることになります。また、調理後すぐに冷蔵したい場合にも、冷めるのを待つ時間が余計にかかります。
自然な暮らしとは、季節の移り変わりに順応することですから、道具もまた、季節や目的に応じて使い分けるという知恵が必要となるのです。
鋳物ホーロー鍋を初めて購入する人が、ストウブではなく他のブランド(例:ル・クルーゼ)を選ぶべき判断基準は何ですか?
ストウブ鍋は内部がマットな黒色であり、無水調理や焼き付け(炒め物)を得意とし、料理を香ばしく仕上げることに優れています。
一方、ル・クルーゼに代表される明るい色の内面を持つ鍋は、料理の色の変化が見やすく、酸味のあるものや、色の薄い煮込み料理に適しています。
初めての方には、まずはご自身の食生活の中で最も使用頻度の高い料理を考え、その調理法に合った特性を持つ鍋を選ぶことが、最も後悔のない選択になるかと思います。
そして、最も大切なことは、高価な道具を持つことに満足するのではなく、その道具を使って、いかに良い食材を、身体を養う料理に変えていくか、という心構えです。
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