便利な暖房器具が増えましたが、現代人の体は芯まで冷え切っています。電気毛布で寝て、喉が渇いたり体がだるくなったりした経験はないでしょうか。それは、電気の熱が体の潤いを奪っているからです。
命を養うのは、母なる大地のような「水」と「火」の力。古くて新しい「湯たんぽ」という道具を見直し、素材の選び方から、内臓を蘇らせる正しい温め方まで、自然の理にかなった本物の手当てをお伝えします。
素材で決まる「熱の質」│プラスチックではなく天然素材を選ぶ理由
直火で水を蘇らせる「トタン製」の力強さと経済性
ホームセンターに行けば、色とりどりのプラスチック製湯たんぽが並んでいますが、私がおすすめするのは、昔ながらの「トタン(亜鉛メッキ鋼板)」などの金属製です。これには明確な理由があります。まず、金属製の多くは蓋を外せば「直火」にかけられることです(※IH対応のものもあります)。
前の晩に使って冷めた水を捨てずに、そのままコンロに乗せて火にかける。これは単に水を節約するためだけではありません。一度冷えた水に、再び「火」のエネルギーを注ぎ込み、熱湯として蘇らせる。この循環こそが自然の理です。
プラスチック製は、毎回新しいお湯を沸かして注がねばならず、冷めた水は捨てることになるでしょう。物を大切にし、最後まで使い切る心。それがトタン製には宿っています。
プラスチックは熱を伝えにくい素材(断熱性がある)ですが、金属は熱を素早く伝えます。これを聞くと「冷めやすいのでは?」と思われるかもしれませんが、そうではありません。
金属製の湯たんぽを、厚手のバスタオルやネルの袋でしっかりと包むと、中の熱が布を通してじんわりと放出され続けます。これが、体の芯まで届く「柔らかな熱」となります。プラスチック越しの熱は、どこか表面的な温かさになりがちですが、金属と布を通した熱は、まるで母親の手の温もりのように、優しく、そして朝までしっかりと温かさが持続します。
土の温もりが五臓六腑に染み渡る「陶器製」の遠赤外線効果
もう一つ、素晴らしいのが「陶器(セラミック)」の湯たんぽです。これは土を焼き締めて作ったもので、江戸時代から使われてきました。陶器の最大の特長は、目に見えない「遠赤外線」を出すことです。
お湯の熱だけでなく、陶器そのものが発する遠赤外線は、皮膚の表面だけでなく、体の奥深くまで浸透します。まるで岩盤浴や砂風呂に入っているかのように、骨の髄までじんわりと温まり、その温もりが朝まで逃げません。重くて割れやすいという欠点はありますが、布団の中で動かないどっしりとした安定感と、土が持つ優しさは、病床にある人や、芯から冷え切った人の五臓六腑を慰めてくれるものです。
ゴム製の柔らかさが生きる時、肩こりや生理痛への局所手当て
基本は金属や陶器が良いですが、天然ゴム製(ドイツのファシー社製など)にも出番はあります。それは「柔らかさ」が必要な時です。
例えば、肩こりが酷い時に肩に乗せたり、生理痛でお腹が痛む時に抱きかかえたりする時です。硬い素材では体に沿いませんが、ゴム製ならば体の曲線にピタリと寄り添ってくれます。ただし、これもお湯の入れ替えが必要であり、劣化も早いため、用途に合わせて使い分けることです。万能選手ではなく、局所の手当て用としてひとつ持っておくのは良い知恵です。
電気の熱は体を干上がらせる。「湿熱」こそが命を潤す
皮膚の表面しか温めない電気毛布と、骨まで届くお湯の熱の違い
「温かければ電気でも同じではないか」と思うかもしれませんが、全くの別物です。電気毛布や電気アンカの熱は「乾熱(かんねつ)」と言い、水分を含まない乾燥した熱です。これは皮膚の表面をジリジリと焦がすようなもので、体の水分を奪い、交感神経を刺激してしまいます。だから、電気毛布で寝ると、喉が渇いたり、妙に疲れてしまったりするのです。
対して、湯たんぽの熱は「湿熱(しつねつ)」です。容器に入っていても、お湯が持つ振動は伝わり、空気中の水分を含んだ柔らかな熱となります。これはお風呂のお湯と同じで、筋肉の緊張を解きほぐし、副交感神経を優位にして、深い眠りを誘います。命は水の中で生まれました。だからこそ、水の熱が一番体に馴染むのです。
寝ている間にコップ一杯の水分を奪われないための「加湿」効果
人間は寝ている間に、コップ一杯分の汗をかくと言われます。冬場の寝室はただでさえ乾燥していますが、そこに電気毛布を使えば、体は干物のようにカラカラになってしまいます。血液がドロドロになれば、脳卒中や心筋梗塞のリスクも高まります。
湯たんぽは、それ自体が水分を含んでいるため、布団の中を過度に乾燥させません。また、金属製や陶器製の湯たんぽを濡れたタオルで包んでから乾いた布で包むと、微量な蒸気が出て、布団の中が天然の加湿器のようになります。喉や鼻の粘膜を守り、風邪の予防にもなる。これが昔の人の知恵です。
足元だけではない。免疫力を劇的に上げる「置く場所」の知恵
肝臓と腎臓を温めれば、全身の血液がストーブのように熱を持つ
湯たんぽと言えば足元に入れるもの、と思いがちですが、冷えが酷い人は足元だけでは足りません。足を温める前に、熱を作り出すエンジンである「内臓」を温めることです。
おすすめは「右の脇腹(肝臓)」と「背中の腰のあたり(腎臓)」です。肝臓は体の中で最も大きな化学工場であり、大量の血液が集まっています。ここを温めると、温まった血液が全身を巡り、結果として手足の先までポカポカしてきます。寝る前の30分、布団の中で読書をする時などに、湯たんぽを抱えて肝臓を温めてみること。全身の力が抜け、驚くほどリラックスできるはずです。
不眠の特効薬、太ももの付け根(鼠径部)とお尻を温める技
足先が冷たくて眠れないという人は、足先ではなく「太ももの付け根(鼠径部)」やお尻の仙骨あたりを温めることです。ここには太い血管とリンパが通っています。
ホースの根本が踏まれていれば、先まで水が届かないのと同じで、股関節周りが冷えて固まっていると、いくら足先を温めても血が巡りません。湯たんぽを股の間に挟んだり、お尻の下に敷いたりして(低温やけどに注意し、厚いカバーをすること)、太い血管を温めること。すると、堰を切ったように温かい血液が足先に流れ込み、氷のような足が自然と温まります。
二つの湯たんぽで挟み撃ちにする、最強のサンドイッチ温法
風邪の引き始めや、悪寒がする時、あるいは癌などの病気で体温を上げたい時は、湯たんぽを二つ、あるいは三つ使う「サンドイッチ温法」が良いです。
背中(腎臓の裏)に一つ、お腹(丹田)に一つ。体をお湯で挟み撃ちにするのです。こうすると、短時間で体温が上がり、免疫細胞が活性化します。自分の熱だけでは足りない時、外から熱を補ってあげる。これは立派な温熱療法です。家族が具合の悪い時は、惜しまずに湯たんぽをいくつも用意して、徹底的に温めてあげることです。
低温やけどは「手当て」不足のサイン。安全に朝まで使う作法
薄いカバーは危険。使い古しのバスタオルで「厚着」させる愛情
湯たんぽで一番怖いのは「低温やけど」ですが、これは道具のせいではなく、使い方の間違いです。付属の薄い袋だけで使っていませんか。それでは熱すぎます。
湯たんぽには「厚着」をさせること。使い古した厚手のバスタオルや、毛布の切れ端、ネルの生地などで、グルグルと何重にも巻くことです。「少し巻きすぎかな?」と思うくらいで丁度良いのです。
こうすることで、空気の層ができ、熱がマイルドになり、保温性も格段に上がります。厚く巻けば、表面温度は下がりますが、その分、保温時間が長くなり、朝までほんのりとした温かさが続きます。この「包む」というひと手間を惜しまないことが、安全への鍵です。
熱すぎるお湯は交感神経を刺激する?70度のお湯が招く安眠
沸騰したお湯(100度)を入れるのが基本の湯たんぽもありますが、プラスチック製などは耐熱温度が低いものもあります。また、あまりに熱すぎる刺激は、交感神経を刺激して目を覚まさせてしまうことがあります。
安眠のためには、70度から80度くらいのお湯が適している場合もあります。ただし、金属製や陶器製で、しっかりと厚着をさせる(タオルで何重にも巻く)のであれば、熱湯を入れても構いません。要は、肌に触れる時の温度が「心地よい」と感じる範囲であること。熱いのを我慢して使うのは、手当てではありません。
布団に入れるのは寝る30分前まで。理想的な寝床の温度管理
理想的な使い方は、寝る30分から1時間前に布団に入れておき、寝床全体を温めておくことです。そして、布団に入る時に、湯たんぽを足元(体に触れない位置)に追いやるか、布団から出してしまうのが、低温やけどを100%防ぐ方法です。
もし入れたまま寝る場合は、絶対に体の一部に長時間触れ続けないようにすること。寝返りを打てる健康な人なら良いですが、お年寄りや子供、泥酔している人の場合は、周りの人間が気をつけて、就寝後に外に出してあげる配慮が必要です。
道具を育てる「しまい方」
トタンの天敵「サビ」を防ぐ、徹底的な乾燥と油の引き方
春が来て、湯たんぽをしまう時が、その人の本性を表します。中のお湯を捨てて、そのまま蓋を閉めていませんか。それでは中に残った水分でサビが発生し、次の冬には穴が開いてしまいます。
金属製の手入れは、まず水を完全に切ること。そして口を下にして風通しの良い場所で数日間、完全に乾かすことです。ドライヤーの風を当てて中を乾かすのも良い知恵です。そして最後に、内側に少量の食用油(オリーブオイルなど)を垂らして馴染ませたり、外側を油を含ませた布で拭いてあげたりすれば完璧です。こうして手をかければ、トタンの湯たんぽは何十年と持ちます。
パッキンの劣化を見逃さない。小さな部品が安全の要
蓋についているゴムパッキンは消耗品です。これが劣化してひび割れていると、お湯漏れの原因となり、大火傷に繋がります。しまう時、そして使い始める時に、必ずパッキンを確認すること。多くのメーカーでは替えのパッキンだけを売っています。小さな部品ですが、これが命を守る砦です。道具を点検し、悪いところがあれば直して使う。この丁寧な暮らしの積み重ねが、健康な体と心を育むのです。
読者さんからのQ&A
Q. 靴下を履いて寝るのは良いことですか?湯たんぽがあれば不要ですか?
A. 靴下は脱いで寝ること。
冷えるからといって靴下を何枚も重ねて寝る人がいますが、これは逆効果です。足の裏は、寝ている間に汗をかき、毒素を排泄し、体温調節をする大切な場所です。靴下で締め付けると、汗で湿って逆に冷えを招き、血流も滞ります。
湯たんぽがあれば、靴下など不要です。素足を湯たんぽ(もちろん厚く包んだもの)の近くに置くか、足全体を布団の中で自由にさせておくこと。どうしても寒いなら、締め付けのない絹(シルク)の「足袋(たび)ソックス」や「レッグウォーマー」で、足首を温める程度に留めることです。
冬の足が冷え切ってる状態で寝床に入る場合でも履いててはだめですか?
氷のように冷たい足で布団に入る辛さ、よく分かります。けれど、やはり「靴下は脱ぐ」のが原則です。
なぜなら、冷え切っているからこそ、自分の力で熱を生み出す体に戻さなければならないからです。靴下で足を密封してしまうと、足の裏からの排毒(汗)が妨げられ、そのかいた汗が冷えて、余計に足を凍らせてしまいます。また、ゴムの締め付けは、細い血管の血流を止め、冷えを固定化させてしまうのです。
どうしても辛い時の、薬に頼らない解決法をお教えしましょう。
まず、布団に入る前に「足湯」をすることです。洗面器に少し熱めのお湯を張り、くるぶしまで浸けて5分から10分。足が真っ赤になるまで温めれば、全身の血が巡り出します。面倒であれば、ドライヤーの温風を少し離して足裏に当て、温めるのも一つの手です。
次に、「レッグウォーマー」を活用すること。足先(指先)は開放して熱や汗を逃がせるようにし、冷えのツボが集まる「足首」だけを絹やウールで温めるのです。これなら血流を止めず、足先が自然とポカポカしてきます。
そして布団に入ったら、先ほどお話しした「湯たんぽ」の出番です。足そのものを包むのではなく、足の近くに置いて、コタツのような空間を作ること。
それでもどうしても靴下が欲しい時は、締め付けのない、重ね履き用の「絹(シルク)」の靴下を一枚だけ履いて布団に入ること。そして、体が温まってきて「暑いな」と感じたら、無意識のうちに布団の中で脱いでしまうことです。朝起きた時に靴下が脱げているなら、それは体が温まった証拠。自分の体の力を信じて、少しずつ「素足」に慣らしていくことです。
Q. 電子レンジで温めるタイプの湯たんぽはどうですか?
A. おすすめしません。
便利だという理由で飛びつく前に、その中身を見てください。ジェル状の化学物質が入っているものが多く、電子レンジという強力な電磁波で加熱するものです。
食べるものを温めるのも避けるべき電子レンジで、体を温める道具を作る。それは不自然なことです。また、冷めるのが早く、湿熱のような浸透力もありません。「お湯を沸かして注ぐ」というほんの少しの手間が、心と体のスイッチを「休息」へと切り替えてくれるのです。その手間を愛することです。
Q. 湯たんぽを使うと、翌朝なんとなく体がだるい気がします。
A. それは体が治ろうとしている「好転反応」です。
湯たんぽで内臓や血液がしっかりと温まると、今まで滞っていた血流が一気に良くなります。すると、体の隅々に溜まっていた老廃物や毒素が血液中に流れ出し、排泄されようと動き出します。この時、一時的にだるさや眠気、時には湿疹などが出ることがあります。
これを「好転反応」と言います。体が正常に戻ろうとして工事をしている音のようなものです。だるい時は無理をせず、水分(白湯など)をしっかり摂って、毒素を出し切ること。続けていけば、体が軽くなり、本物の健康がやってきます。止めずに続けることです。
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