自然療法を通して、食はいのちそのものであるとお伝えしてきましたが、その命を刻む土台である「まな板」がおろそかにされがちです。
プラスチックの板から、自然の木に戻りたい。
そう思い立ったあなたの直感は正しい。
けれど、ホームセンターに行けば、薄っぺらな板や、接着剤で固めた板が溢れています。
家庭で毎日使うからこそ、妥協してはいけない本物の選び方があります。
ここでは、一生を添い遂げるにふわしい木のまな板の選び方をお伝えしましょう。
迷ったら「いちょう(銀杏)」を選ぶこと
刃の傷を自ら修復する生命力。トントンという音が教える食材への感謝
家庭用として最初の一枚に何を買うべきかと問われれば、私は迷わず「いちょう(銀杏)」のまな板をおすすめします。
昔から、料理人や板前さんがいちょうを愛用するのには、深い理由があります。
それは、いちょうの木が持つ適度な「柔らかさ」と「油分」です。
包丁で食材を切る時、まな板には必ず刃が当たります。
硬すぎる木やプラスチックでは、刃が弾かれて刃こぼれの原因になりますが、いちょうは刃を優しく受け止めてくれます。
さらに素晴らしいのは、その復元力です。
小さな傷なら、水分を含むと木が膨らみ、自らの力で傷を塞いでしまうのです。
「トントン」という柔らかく低い音。この響きは、料理をする人の呼吸を整え、食材に対する感謝の心を育ててくれます。
硬い音のする台所では、人の心もギスギスしてしまうものです。
「ひのき(檜)」の香りは天然の薬。湿気に強くカビを寄せ付けない森の力
いちょうと並んで素晴らしいのが、日本の銘木「ひのき(檜)」です。
いちょうよりも香りが強く、台所に立つだけで森の中にいるような清々しい空気に包まれます。
この香り成分「フィトンチッド」には、強力な防虫・殺菌作用があります。
湿気が多く、カビが心配な日本の台所において、ひのきは自らの油分と香りでカビの繁殖を抑えてくれます。
いちょうに比べて少し硬めですが、水切れの良さは抜群です。
もし、あなたが香りに敏感で、道具に清潔さを何より求めるのであれば、ひのきを選ぶのも良い選択です。
ただし、ヤニ(樹脂)が出ることがありますが、あれこそが木が生きている証拠であり、天然の抗菌剤であることを忘れてはいけない。
「継ぎ目」のある板は買ってはいけない
一枚板(無垢材)であることの意味。反りや割れもまた自然の呼吸である
お店で安く売られている木のまな板をよく見てごらんなさい。
細い木を何本も並べてくっつけた「集成材(しゅうせいざい)」ではありませんか。
家庭用として選ぶべきは、絶対に「一枚板(無垢材)」です。
集成材は、小さな木片を化学接着剤で貼り合わせたものです。
包丁が当たるたびに、目に見えないレベルで接着剤の成分が溶け出したり、剥がれたりする可能性があります。
毎日口にするものを作る場所が、化学物質であってはいけません。
一枚板は、湿気や乾燥で反り返ったり、割れたりすることもあります。
しかし、それは木が呼吸している証です。
反ったら裏返して使い、水を吸わせて調整する。その対話こそが、自然と共に生きるということです。
重さを嫌がって薄い板を選んではいけない。3センチの厚みが安定を生む
最近は「軽くて扱いやすい」という理由で、厚さ1センチや2センチの薄いまな板が人気ですが、これはおすすめできません。
薄い板は、切る時の衝撃を吸収しきれず、手首や肘に負担をかけます。
また、すぐに反り返ってガタつく原因にもなります。
家庭用であっても、最低でも「厚さ3センチ」は必要です。
この厚みがあれば、どっしりと安定し、包丁の重みを板全体で受け止めてくれます。
重いと感じるかもしれませんが、その重さが台所仕事の重心を下げ、心を落ち着かせてくれるのです。
狭いシンクで洗うのが大変なら、シンクの縁に立てかけるようにして、たわしを動かすこと。
大きな板を振り回すのではなく、自分が動く、あるいは板を少しずつ回しながら洗えば、驚くほど楽に扱えます。
置き場所、干し場所をどうするか?
「せっかく本物の木のまな板を迎えても、置き場所が悪ければ、すぐにカビさせてしまうのではないか」
人間が新鮮な空気を求めるように、まな板もまた、心地よい「風」を求めています。
「横に寝かせる」のは窒息の元
使い終わったまな板を、濡れたまま調理台にペタンと寝かせて置く。これが一番いけません。
接地面から水分が逃げ場を失い、そこから菌が繁殖して黒ずみやカビの原因になります。
まな板は必ず「立てて」置くこと。
それも、木目が「垂直(上下)」になるように立てるのが理想的です。
木は根から吸い上げた水を上に運ぶ性質があるため、垂直に立てることで、繊維の隙間から水分がスムーズに抜けていくのです。
「直射日光」は命取り
「日光消毒をしたい」と、強い日差しが当たる場所に長時間放置するのもやめることです。
急激な乾燥は、木の表面と内部の水分バランスを崩し、大切な一枚板がバキリと割れる原因になります。
木が求めているのは、太陽の熱ではなく「風」です。
窓際でなくても構いません。風が通り抜ける日陰に、ゆったりと置くこと。
それが、木を健やかに保つ最高の養生となります。
理想的な置き場所・干し場所
- シンク周りの風通しが良い場所(常に空気が動いているところ)。
- コンロから離れた場所(熱による急激な乾燥を防ぐため)。
- まな板の下に「空間」ができるスタンドを活用すること。
出しっぱなしが美しい。「隠さない」ことでカビを防ぐ
まな板をシンクの下や戸棚の中に隠してはいけません。
湿気がこもる場所は、まな板にとっての牢獄です。
出しっぱなしにしても絵になるのが、本物の白木の姿です。
台所の一角に「まな板の定位置」を作り、常に外気に触れさせておくこと。
その存在感が、台所を「命を産み出す聖域」へと変えてくれるはずです。
| 比較項目 | 避けたい置き場所 | 理想的な置き場所 |
|---|---|---|
| 向き | 寝かせて置く(平置き) | 垂直に立てて置く |
| 日当たり | カンカン照りの直射日光 | 風通しの良い「日陰」 |
| 通気性 | シンク下や戸棚の中 | オープンな調理台の上 |
| 接地面 | 直接台に触れている | スタンドで浮かせている |
Q. まな板スタンドは何を使えば良いですか?
A. 3センチの厚みに耐え、かつ接地面が最小限になるものを選ぶこと。
木製のスタンドも良いですが、水切れを重視するならステンレス製も実用的です。
大切なのは「まな板の底」がベチャベチャと濡れたままにならないよう、風が通る隙間を作ることです。
私が愛用しているのは下村企販さんのスタンドです。
ウレタン塗装は木の窒息死
最後に、塗装についてです。
「カビないように」と、表面にウレタン塗装や樹脂加工が施された木のまな板がありますが、これは木をプラスチックでラップしているのと同じです。
木は呼吸ができず、本来持っている殺菌作用も発揮できません。
選ぶべきは、何も塗っていない「無塗装(白木)」のものです。
使う前にたっぷりと水をかけ、乾いた布で拭き取る。
この「水養生(みずようじょう)」をするだけで、水の膜ができ、食材の匂いや汚れが染み込むのを防いでくれます。
肉や魚の脂を「塩と熱湯」で清める。衛生管理の極意
- 塗装がないからこそ、熱湯消毒ができる特権を活かすこと。
- 生肉や生魚を扱った後は、まず水で流し、粗塩を振って「たわし」でゴシゴシと磨く。塩の粒子が脂を吸い出し、殺菌もしてくれる。
- 仕上げに熱湯をたっぷり回しかければ、菌も脂も消え去り、白木本来の清浄さが戻る。
- 不自然な洗剤は不要。自然の力で「お清め」をすれば、木はますます丈夫になる。
自然の木は、水と仲良くすることで、最強の道具となるのです。
便利さよりも、この一手間を愛せる人が、本物の健康を手にすることができるのです。
おすすめの木のまな板を厳選3つ
私が自信を持っておすすめできる、一生を添い遂げるにふさわしい「3つの銘品」をご紹介します。
どれも、先ほどお話しした「一枚板(無垢)」「厚み」「削り直しができる」という条件を満たした、命を宿す道具たちです。
1. 双葉商店(福井県)の「いちょうのまな板」
もし、どれか一つと言われたら、私はこれを選びます。
福井県で古くから銀杏(いちょう)の木だけを専門に扱ってきた老舗のまな板です。
特筆すべきは、家庭用であっても「厚さ3センチ」という、どっしりと規格を守り続けていること。
そして何より素晴らしいのは、「まな板の削り直しサービス(無料・送料のみ負担)」を公式に行っていること。
まさに「一生モノ」として売る覚悟を持った、誠実な道具です。
2. 土佐龍(高知県)の「四万十ひのき 一枚板まな板(スタンド付)」
「木のまな板はカビさせそうで怖い」という方には、こちらが一番です。
高知の四万十川流域で育った檜は、他の地域の檜よりも「油分(樹脂)」を豊富に含んでおり、驚くほど水を弾きます。
洗い終わったら、クルッと脚を回して立てるだけ。風通しの良い場所に置くことが、木を長持ちさせる絶対条件ですが、それを誰でも簡単に実践できるようにした「知恵」の塊です。
3. woodpecker(岐阜県)の「いちょうのまな板」
「重すぎるのはちょっと…」という方や、少しモダンな台所には、岐阜のウッドペッカーさんのものが良いでしょう。
素材は最高級の国産いちょうの一枚板ですが、厚みを「2.5センチ」に抑えることで、強度を保ちつつ、女性が片手で洗える軽さです。
無理なく自然を取り入れたい、という若い方への入り口としても素晴らしい一品です。
一生を共にするためのメンテナンスと「削り直し」という再生
黒ずんだら削れば良い。一生を共にするための「削り代(しろ)」という余裕
木は使っていれば必ず黒ずみます。それを「汚い」と捨ててはいけません。
木のまな板の真価は、表面が汚れたり凹んだりしたら、「カンナで削り直せる」ことにあります。
厚みのある一枚板を選んでおけば、数年に一度、表面を数ミリ削るだけで、新品同様の白木が顔を出します。
これを繰り返すことで、まな板は少しずつ薄くなりながらも、何十年と使い続けることができるのです。これを「削り代(しろ)」と言います。
使い捨てのプラスチックにはない、再生と循環の物語がそこにあります。
購入する際は、削り直しサービスを行っているメーカーや職人から買うこと。
それが、道具を最後まで愛し抜くための責任です。
読者さんからのQ&A
| 比較項目 | プラスチック・合成ゴム | 本物の木のまな板 |
|---|---|---|
| 安全性 | 化学物質・マイクロプラのリスク | 天然成分のみ(無害) |
| 包丁への影響 | 刃を傷めやすい(硬い場合) | 刃を優しく受け止める |
| 衛生管理 | 傷の中の菌が落ちにくい | 木自体の殺菌作用で自浄する |
| 寿命 | 数年で使い捨て | 削り直しで数十年以上(一生モノ) |
木はスポンジのように無数の穴が開いた素材です。
繊維の奥深くには塩素成分が残留し、次にそこで切った野菜がその毒を吸い上げます。
黒ずみが気になるなら、塩をつけてたわしで磨くか、熱湯をかけて天日で干す、あるいは表面を削ることです。白さという見た目だけに囚われてはいけない。
塗るなら、空気に触れると固まる「乾性油」である、クルミ油や亜麻仁油、あるいは蜜蝋を選ぶこと。
ですが、毎日使い、毎日洗う。それが一番の手入れです。食材の油分が自然と馴染んでいくため、神経質に塗る必要はありません。
アメリカの研究でも、木のまな板は菌が内部に浸透しても、木の持つ抗菌作用や乾燥によって死滅するのに対し、プラスチックの傷に入り込んだ菌は、洗っても落ちずに中で繁殖し続けるという結果が出ています。
お近くに職人がいない場合は、双葉商店のような削り直しを公言しているメーカーのものを最初に選ぶのが最も賢明です。
道具を再生させる場所を確保しておくことが、一生を共にするための安心に繋がります。
集成材は強力な化学接着剤で貼り合わせて作られています。包丁の衝撃で接着剤が食材に付着する可能性を否定できません。
一枚板は接着剤という不純物がなく、衝撃を吸収してくれる「柔らかな土台」です。
いちょうの木などは母親の心音にも似て、料理をする人の呼吸を深くし、心を穏やかにします。
作り手の心が穏やかであれば、その気は料理に移り、食べた家族の心を優しく満たします。音もまた、栄養の一部であることを知ってください。
今日からやってみよう!一生モノのまな板・浄化リスト
- プラスチックや集成材を卒業し、日本の「いちょう」や「ひのき」の一枚板を迎えること。
- 必ず「厚さ3センチ」を選び、どっしりとした安定感で心を整える。
- 使う前の10秒、「水養生」で木の表面に水の膜を張る習慣をつける。
- 「棕櫚(しゅろ)のたわし」を用意し、洗剤に頼らず水と力で洗い清めること。
- 肉や魚の後は「塩と熱湯」でお清めをし、立てて乾かす手間を愛する。
台所から不自然なものを去り、自然の理に叶った道具を揃えることは、自分と家族への最高の慈しみです。
今日、あなたの手元に届くその木の香りが、新しい命の物語を始めてくれることでしょう。




































コメント